主婦業40年で1億円?家事労働と日本の離婚制度を考える

「専業主婦の仕事を時給や日給に換算したら、40年間で1億円を超えるのではないか」。この疑問は、単なる机上の計算ではありません。家事・育児・介護などの無償労働には、実際に経済的な価値があります。一方、日本の離婚時の財産分与は、家事労働そのものを40年分の賃金として精算する制度ではありません。では、この仕組みは本当に合理的なのでしょうか。さらに、結婚制度を維持するためにベーシックインカムや新しい通貨制度を組み合わせる方法まで考えてみます。

主婦業40年で1億円という計算は本当に成立する?

たとえば、家事労働を「1日1万円」と仮定してみます。

1万円×365日=年間365万円

これを40年間続ければ、

365万円×40年=1億4,600万円

となります。

つまり、「主婦業40年=約1億5,000万円」という計算自体は、算数として間違っていません。

ただし、これは「主婦が実際に1億4,600万円を稼いだ」という意味ではありません。

家事労働には、料理、掃除、洗濯、買い物、育児、介護、家族の世話などが含まれます。これらを外部の家事代行、保育、介護、調理などに置き換えた場合、いくら必要になるのかという「サービス価値」を考える方法があります。

実際、日本の内閣府も無償労働について貨幣評価の研究を継続しており、家事・育児・介護などを時間と賃金から評価する方法を採用しています。つまり、家庭内労働を経済価値として考えること自体は、決して奇抜な発想ではありません。

なぜ家事労働は「給料」にならないのか?

ここが重要なポイントです。

会社員の場合、労働を提供すると企業から賃金を受け取ります。しかし専業主婦・専業主夫の場合、家庭内で仕事をしても、その労働に対する給与は通常支払われません。

では価値がゼロなのかというと、そうではありません。

たとえば夫が外で働き、妻が家事・育児を担当している場合、妻が家事をすることで夫は仕事に集中できます。妻が育児を担当することで、夫婦が外部の保育サービスを利用する必要も減ります。

つまり、

「現金収入を得ていない」

ことと、

「経済的な貢献をしていない」

ことは別問題です。

内閣府も、無償労働は市場取引を通じていないためGDPには通常記録されない一方、社会を支える重要な生産活動として貨幣評価を研究しています。

この視点から見ると、「専業主婦は何も稼いでいない」という表現は正確ではありません。

日本の離婚では家事労働がどう評価される?

では、離婚したときに40年間の家事労働を1億円として夫から受け取れるのでしょうか。

答えは、そういう制度にはなっていません。

日本の財産分与は、婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持された財産を、離婚時に分ける仕組みです。

たとえば夫名義の預金や住宅であっても、妻が家事などを分担して夫を支えていた場合には、夫婦の協力によって形成された財産として財産分与の対象になり得ます。

そして実務上は、共働きの場合だけでなく、専業主婦・専業主夫の場合でも、夫婦の財産を2分の1ずつに分ける扱いが多いと法務省が説明しています。

したがって、現在の制度は、

「妻の家事労働40年=1億4,600万円を夫が妻に支払う」

という方式ではありません。

むしろ、

「夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を分ける」

という考え方です。

この違いは非常に大きいでしょう。

「家事労働を40年分精算する制度」にすると何が起こる?

ここからは法律論ではなく、制度設計の問題です。

仮に、

「専業主婦の家事労働を1日1万円として、婚姻期間40年なら1億4,600万円を離婚時に精算する」

という制度を作ったとします。

一見すると公平に見えます。

しかし、問題も発生します。

第一に、家事を何時間したのかをどう測るのか。

第二に、料理、掃除、育児、介護などをそれぞれいくらと評価するのか。

第三に、夫も家事をしていた場合はどうするのか。

第四に、夫が家計のために住宅ローンや教育費を負担していた場合、それをどう調整するのか。

さらに最大の問題は、婚姻期間が長くなるほど離婚時の精算額が巨大になることです。

その結果、「結婚したら、将来離婚したときに巨額の債務を負うかもしれない」と考える人が増える可能性があります。

つまり、家事労働を正当に評価することと、離婚時にその全額を現金で精算することは、別の問題なのです。

結婚を維持するには「離婚時の精算」だけでよいのか?

ここからが、より大きな問題です。

日本では結婚を選択する未婚者が減少しています。

国立社会保障・人口問題研究所の2021年の第16回出生動向基本調査では、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と回答した割合は、男性81.4%、女性84.3%でした。前回調査では男性85.7%、女性89.3%だったため、男女とも低下しています。

これは「日本人が結婚を完全に拒否するようになった」という意味ではありません。

それでも、結婚する意思を持つ割合が長期的に低下していることは重要です。

結婚には、恋愛だけでなく、

・住宅
・子育て
・家事
・仕事
・介護
・相続
・離婚
・財産分与

など、非常に多くの制度が結び付いています。

だからこそ、結婚制度を考えるときには「離婚した場合に誰が得をするか」という視点だけでなく、「そもそも結婚しやすい制度になっているか」という視点も必要になります。

MMTとデジタル・ベーシックインカムは解決策になるのか?

ここで登場するのが、MMT(現代貨幣理論)やベーシックインカムです。

MMTは、政府の財政や通貨発行、インフレ、失業などを従来とは異なる角度から分析する経済思想です。日本でもMMTとベーシックインカムを組み合わせた議論は存在します。

ただし、

「MMTなら無限にお金を配れる」

という意味ではありません。

政府が通貨を発行できるとしても、現実の経済には食料、住宅、エネルギー、労働力などの限られた資源があります。

大量に給付すれば、財政上の数字だけではなく、インフレや資源配分の問題が発生します。

そこで考えられるのが、通常のベーシックインカムとは少し違う制度です。

たとえば「半減期通貨」のような仕組みです。

これは、一定期間が経過すると保有通貨の価値が減少するデジタル通貨を給付するという考え方です。

たとえば10万円を給付し、一定期間後に残高の一部が減少する仕組みにすれば、「貯め込むためのお金」ではなく「使うためのお金」にできます。

もちろん、これは現在の日本で実施されている制度ではありません。あくまで制度設計上のアイデアです。

「結婚した人を助ける」のではなく「生活そのものを保障する」という発想

この考え方の面白いところは、結婚を直接優遇しなくてもよい点です。

現在の社会では、結婚すると生活費を共同化できます。

夫婦のどちらかが働けなくなっても、もう一方が支えることができます。

しかし、これが逆に「結婚しなければ生活が苦しい」という圧力になる可能性もあります。

そこで、個人単位で最低限の所得を保障できれば、

「結婚しないと生活できない」

という状態を弱められます。

さらに、家事や育児など市場外の労働を社会全体で支える仕組みを組み合わせれば、専業主婦・専業主夫という選択も、共働きという選択も成立しやすくなります。

重要なのは、「女性にお金を与える」「男性にお金を与える」という単純な男女対立ではありません。

誰が家庭内労働を担っても、その人の生活が破綻しない制度にすることです。

では「主婦業1億円」という考えは正しいのか?

結論として、「40年間の家事労働には1億円規模の経済価値があり得る」という問題提起には十分な意味があります。

ただし、「だから離婚時に1億円を必ず支払わせるべきだ」とまでは言えません。

家事労働の価値と、離婚時に誰がいくら受け取るべきかは別の問題だからです。

むしろ重要なのは、現在の制度が「家庭内で誰が何を負担したのか」を完全には金銭化しないまま、夫婦財産を分配している点でしょう。

一方で、結婚には将来の離婚リスクがあります。

そのため、

「家事労働を正当に評価する」

「子育てのコストを社会で分担する」

「離婚時の財産分与を透明化する」

「結婚していなくても最低限の生活を保障する」

という複数の制度を組み合わせる方が、単純な「主婦業40年=1億円請求」より現実的です。

結婚する人を増やしたいのであれば、結婚を義務化したり、男女のどちらかを一方的に保護したりするよりも、「結婚しても人生が破綻しない」という安心感を作ることの方が重要なのかもしれません。

そして、その先にあるのが、個人への所得保障、デジタル通貨、ベーシックインカム、そしてMMTを含む新しい経済制度の議論です。

これはまだ完成した制度ではありません。

しかし、「家事労働には価値があるのに、なぜ市場ではゼロ円になるのか」「結婚制度は現代の人生設計に適応しているのか」という疑問から出発すれば、かなり筋の通った制度改革論へ発展させることができます。

まとめ

「主婦業を1日1万円」と仮定すると、40年間で約1億4,600万円になります。

この数字は家事労働そのものの市場価値を意味するものではありませんが、家庭内の無償労働を経済的価値として考える問題提起にはなります。

日本でも内閣府が無償労働の貨幣評価を研究しており、家事・育児・介護などが社会を支える労働として研究対象になっています。

一方、日本の離婚時の財産分与は、40年分の家事労働をそのまま賃金として精算する制度ではありません。婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を分ける仕組みが基本です。

そして、結婚意思が低下する中では、離婚時の負担だけを論じるのではなく、結婚・出産・家事・育児を含めた人生全体の経済的リスクをどう社会で分担するかが重要になります。

MMTやベーシックインカム、さらに減価するデジタル通貨のような構想は、その一つの可能性として検討できます。

「主婦業1億円」という単純な計算から始めても、実は問題の核心はお金そのものではありません。

家庭内労働をどう評価するのか。

結婚という制度をどう維持するのか。

そして、人間が結婚する・しないにかかわらず、どうすれば安心して人生を設計できる社会になるのか。

この3つを同時に考える必要があります。

FAQ

Q1. 専業主婦40年で本当に1億円になりますか?
1日1万円という仮定なら、40年間で1億4,600万円になります。ただし、これは家事労働を一定額で評価した試算であり、法律上の請求額ではありません。

Q2. 日本では家事労働は離婚時に評価されますか?
評価されます。ただし、家事労働40年分を給与として計算する方式ではなく、婚姻中に夫婦が協力して形成・維持した財産の分与という形で反映されます。

Q3. 共働きなら家事労働の価値はなくなりますか?
なくなりません。夫婦双方が仕事と家事をどのように分担したかは、家庭への貢献を考えるうえで重要です。

Q4. MMTならベーシックインカムを無制限に配れますか?
いいえ。MMTを採用したとしても、現実の経済には供給能力や労働力などの制約があります。過剰な給付によるインフレは別途考える必要があります。

Q5. 半減期通貨のベーシックインカムは日本で実施されていますか?
現時点で、そのような制度は日本の公的なベーシックインカム制度として実施されていません。減価するデジタル通貨とベーシックインカムを組み合わせる考え方は、今後検討できる制度設計上のアイデアです。

タイトルとURLをコピーしました