アメリカにおけるイノシシ(feral hog)被害の深刻さと、ライフルによる駆除の非効率性についてのご指摘、よく理解しました。毒餌による駆除がなぜ広く採用されていないのか、また他にどのような方法があるのか、以下に詳しくご説明します。
なぜ毒餌による駆除が一般的でないのか
1. 非標的生物へのリスクと環境への影響
毒餌はイノシシ以外の動物(ペット、家畜、野生動物)にも被害を与える可能性があります。特に、毒餌を食べたイノシシの死骸を他の動物が食べる「二次中毒」のリスクも深刻です。
2. 法的規制と承認プロセスの複雑さ
アメリカでは毒餌の使用には連邦および州レベルでの承認が必要です。たとえば、ワルファリンを用いた「Kaput® Feral Hog Bait」はEPA(米国環境保護庁)により2017年に承認されましたが、州ごとに使用許可が異なり、現在も多くの州では未承認です
3. 実用性の課題:効果的な使用には時間と手間がかかる
毒餌は一度で効果が出るわけではなく、複数回にわたる給餌と慎重なモニタリングが必要です。テキサス州の研究では、ワルファリンベースの毒餌を使った駆除には6週間以上かかることがあり、手順を省略すると効果が著しく低下することが報告されています。
4. ステークホルダーの反対
ハンターや食肉業者などからは、毒餌使用による食肉への影響や環境への懸念から反対の声が上がっています。例えば、Kaput使用に対しては、ハンター団体や食肉加工業者からの反発がありました 。
現在検討されている毒餌とその状況
• ワルファリン(Kaput®)
EPA承認済みで、テキサス州やオクラホマ州で登録されていますが、使用には厳しい制限があり、広範な導入には至っていません 。
• 亜硝酸ナトリウム(Sodium Nitrite)
オーストラリアでは「Hoggone™」として使用されており、迅速かつ人道的で非標的生物への影響が少ないとされています。アメリカでも承認に向けた評価が進められていますが、現時点では未承認です 。
他の駆除方法とその特徴
1. トラップ(罠)
コーラルトラップなどを使えば、一度に複数のイノシシを捕獲でき、毒餌よりも安全性が高い方法です。ただし、設置や管理に手間がかかります。
2. 銃による駆除
即効性があり、個体を確実に排除できますが、広範囲にわたる個体数の削減には非効率で、コストも高くつきます。
3. 統合的管理(IPM:Integrated Pest Management)
毒餌、トラップ、銃撃、フェンス設置などを組み合わせた総合的なアプローチが最も効果的とされています。オーストラリアでは、1080(フルオロ酢酸ナトリウム)を用いた毒餌が初期制御に使われ、その後トラップや銃撃でフォローアップする戦略がとられています 。
まとめ
• 毒餌は理論上有効な手段ですが、非標的生物へのリスク、法的制約、実用性の問題、ステークホルダーの反対などが障壁となっています。
• 現在、ワルファリンや亜硝酸ナトリウムを使った毒餌が研究・試験段階にありますが、広範な導入には至っていません。
• 最も現実的かつ効果的な方法は、毒餌・トラップ・銃撃などを組み合わせた統合的管理です。
