ローマのコロッセオが約2000年もの間、自然現象や地震に耐え続けている理由、そして現代の建築物が100年程度で建て替えられることが多いのはなぜか――その核心には、ローマ時代のコンクリート(ローマン・コンクリート)と現代のポルトランドセメント系コンクリートとの材料構成と化学反応の違いがあります。
ローマン・コンクリートが長寿命である理由
• 火山灰(ポッツォラーナ)と石灰(酸化カルシウム)を使用
ローマ人は、ポッツォラーナと石灰を混ぜたコンクリートを用いていました。この組み合わせが、現代のポルトランドセメントとは異なる化学反応を引き起こします。
• 海水との反応で強化される希少鉱物の生成
海水がコンクリートに浸透すると、「アルミニウム・トバーモライト」や「フィリプサイト」といった希少鉱物が生成され、時間とともに構造を強化します。
• 「ホットミキシング」による自己修復機能
ローマ人は「ホットミキシング」と呼ばれる手法で、石灰を他の材料と先に混ぜ、後から水を加えることで高熱を発生させました。この過程で生じる「ライムクラスト(石灰塊)」が、ひび割れに水が入ると反応し、カルシウム炭酸塩を再結晶させてひびを自然に修復します。
• 時間とともに強くなる構造
現代のコンクリートは時間とともに劣化しがちですが、ローマン・コンクリートはむしろ時間が経つほど鉱物が成長し、強度が増す傾向があります。
現代コンクリートが短命な理由
• ポルトランドセメントの使用と早期硬化
現代のコンクリートはポルトランドセメントを主成分とし、短期間で硬化するよう設計されていますが、その分ひび割れや劣化が進みやすい構造です。
• 鉄筋の腐食による構造劣化
鉄筋を内部に埋め込むことで初期の強度は高まりますが、ひびから水や塩分が侵入すると鉄筋が腐食し、膨張してコンクリートを破壊する「スパリング」が発生します。
• 海水や塩分による化学的劣化
現代コンクリートは多孔質であるため、海水中の塩分が内部に入り込み、硫酸塩攻撃やアルカリ骨材反応などを引き起こし、構造を劣化させます。
なぜ現代ではローマン・コンクリートが使われないのか?
• 材料の入手困難とコスト・時間の問題
ポッツォラーナのような火山灰は地域によって入手が難しく、また「ホットミキシング」などの工程は時間と手間がかかるため、現代の大量・迅速な建設には向きません。
• 構造用途の違い
ローマン・コンクリートは圧縮に強い構造には適していますが、高層ビルや鉄筋構造など現代の多様な用途には対応しづらい点があります。
まとめ
ローマのコロッセオが2000年もの間崩壊せずに残っているのは、火山灰と石灰による化学反応、海水との相互作用による鉱物生成、そして自己修復機能といった、現代のコンクリートにはない特性を持つからです。一方、現代の建築物が100年程度で建て替えられるのは、早期硬化を重視した材料設計や鉄筋腐食、化学的劣化などが原因です。
ローマン・コンクリートの技術は現代にも応用が期待されており、より長寿命で持続可能な建築材料の開発に向けた研究が進んでいます。
